第168回例会 開催報告
168 回 例 会 は 9 月 29日(土)に連合会 館で開催され、山崎茂 幸氏(54 期)に「日 本人の起源」のテーマ で講演していただきま した。参加者は61名 でした。講演要旨は以 下の通りでした。
日本人の起源について意見が分かれるのは今から3 千年ほど前、朝鮮半島から人が船で日本に渡れるよう になり、稲作を主体とした弥生時代が始まった頃の状 況についてである。教科書などでは「弥生時代に入る と、朝鮮半島から稲作の知識を持った人たちが船で大 量に日本に流入し、それまで住んでいた縄文人にとっ て代わった」と記されている。 この通説に対し、古地理からする日本列島の成り立 ちやDNA解析など多面的な研究から“主体は縄文人 であった”との仮説を導いた山崎氏からその根拠につ いて種々解説があった。 ▼「縄文人」が主体だ 4万年ほど前、時は氷河期で日本が大陸と地続き だった頃、それよりも1万年ほど前に世界各地に拡散 を始めたホモ・サピエンスの一部が、北と南の2つの ルートから日本列島にたどり着いた。それから2万年 が経過し、寒気が最も厳しかった氷河期にモンゴルな どから寒さを避けて多くの人が日本に流入してきた。 1万7千年ほど前になると、氷河期が終わりをつげ、 地球全般で温暖化が始まり、地表を覆っていた氷はど んどん溶け、海面が100 mも上昇した。この海面上 昇により、対馬海峡では当時は大きな湖に過ぎなかっ た今の日本海に向かって東シナ海から海水が流入し、 南からの移動ルートは途絶えた。 さらに時が過ぎて約1万3千年前になると、宗谷海 峡と津軽海峡も水没するほど海面が上昇し、周りを海 で囲まれた現在の日本の姿になった。これにより、北 からの移動ルートも遮断され、日本に住んでいた人た ちは大陸から切り離され、孤立することになった。
温暖化は生態系にも大きな変化をもたらした。地表 を覆っていた針葉樹は広葉樹の森へと変わり、マンモ スなどの大型動物は姿を消し、代わりにイノシシや野 ウサギなどの小動物が生息するようになった。旧石器 人は豊富に採れるドングリなどを主食にすることで定 住するようになり、縄文時代が出現した。採取、狩猟、 そして漁労を中心とした縄文時代はそれから1万年に もわたって持続し、縄文文化が花開いた。 ▼多人数の「弥生人」渡来は困難 弥生時代に朝鮮半島からの渡来人が日本の文化に大 きな影響を与えたとしても、当時の渡航技術からする と多人数の渡来は困難。渡来人は、縄文人の数推定 10万人に比べればごく少数としか考えられず、渡来 人が主体となったとの説には無理がある。 もう一つの有力な根拠が「日本人の血液型Gm 遺伝子abstの比率がモンゴル人のものと非常に よく一致するのに対して、朝鮮半島の人たちのも のとは微妙に異なる」という指摘をした大阪医科大学・松本秀雄先生の研究結果である。どちら の説が正しいかは現在の段階ではわからない。
おりしも、国立遺伝情報学研究所を中心に、弥生人 の遺伝子情報を解析することで日本人の起源を解明し ようとする5年プロジェクトが発足する。6年後には この問題に対して一つの結論が示されると思う。 山崎氏が本当に楽しそうに講演されている姿を見 て、結論はどちらでもよいのでは、との思いが私の心 の中をよぎった。重要なことは、山崎氏が好きな古代 史の研究に没頭した楽しく幸せな20年もの日々の末 に、自ら納得できる仮説にたどりついたことではない かと思う。 ( 了)
2018年2月15日
第166回例会 講演会 開催報告
日時:2018年2月3日(土)
場所:連合会館 4F 第1会議室
演題:「映像から読み解くジェンダー、欧米社会とジェンダー」
講師: 石黒久仁子氏(80期・東京国際大学国際戦略研究所准教授)
<石黒氏プロフィール>
丸子町出身、高校時代は硬式テニス班、1986年学習院大学文学部仏文科卒業後は
国内商社・外資系企業人事部に勤務。その後2002年から英国シェフィールド大学
で学び、2008年博士号取得。帰国後に東京大学社会科学研究所を皮切りに研究者
としてスタート。雇用、マネジメントに関する問題をジェンダーの視角から分析している。
2月3日(土)に連合会館で開かれた第166回例会は、石黒久仁子氏(80期)の講演会と懇親会。寒波到来中の寒い中にも拘わらず、講演会には43名、懇親会には35名が参加されました。以下は講演の概要です。
講演は、石黒氏のユーモア溢れる自己紹介から始まった。高校、大学、社会人を通して硬式テニスに熱中していた。父親の影響もあって子供の頃から映画鑑賞が趣味であり、映画を通してその国の歴史・社会状況・文化・人々の暮らし、等が良くわかり、今でも社会学研究の一助になっているという。
次に本題。まず「ジェンダー」とは、「社会的・文化的に形成された性別(男女の違い)」のことで、生物学的な生まれながらの性別とは異なる。ジェンダーとしての女性とは社会における見方(視角)の一つ、ととらえる。
石黒氏は外資系企業勤務や英国留学の経験を背景に、ジェンダーの視角から女性が社会・経済の中で果たす役割について研究しているが、その心底には、女性のみならず様々な人々が社会で十分に力を発揮できて「生きたい人生=幸せな人生」を送ることができるように、という願いを込めている。
女性が社会・経済の中で果たす役割という観点で、女性のライフキャリアについて見てみる。ライフキャリアは人生における役割・環境・出来事等により変化していく、その変化する中で自分の人生をどのように作っていくかが重要。また、そのライフキャリアは時代と共に変化している。例えば、女性のライフコース(平均的にどんな人生を歩むかをモデルケース化したもの)は、1905年生まれの場合、夫の死後に末子が結婚し、間もなく自分の寿命(63.5歳)を迎える。一方、1968年生まれの場合、末子の結婚後自分の寿命(83.9歳)まで約30年間もある。
次に日本の現状が北欧諸国との比較で紹介された。世界各国の男女平等の度合いを示した2017年版「ジェンダー・ギャップ指数」(女性の地位を経済・教育・政治・健康の4分野でランキング化)によると、日本は144ヵ国中114位。特に政治(123位)・経済(114位)分野で低位。上位の多くは北欧諸国が占める。(1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位ルワンダ、5位スウェーデン)北欧諸国が上位を占める大きな理由の一つとして、「福祉が社会化されている(政策として社会が担う)こと」が挙げられる。これは「女性労働力の社会化」につながる。そして「国民の共助の意識化と政策への信頼の強さ」がある。政策例としてノルウェー発祥の「クォータ制」(政治システムにおける割り当て制度)が紹介された。これについては、準備できていない女性がその地位に就くことにより生じる現場の混乱、平等原理の侵害、逆差別、などの反対意見もある。
「クォータ制」に関連して日本の「202030」(2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%程度とする目標:第3次男女共同参画基本計画~H22年12月閣議決定)が紹介されたが、現状では目標達成は難しい状況。
最後に日本の今後の課題について。北欧諸国が進んでいるのは、長い歴史の中で地政学的に生き残る手段として築き上げた側面が強く、日本とは国のサイズの違いもある。また決して今の北欧諸国がパラダイスではなく、民族間の対立問題なども存在する。大事なのは先ずは我々一人ひとりが現状の壁を正面から受け止めることから始めること。そして北欧諸国を参考にしながら日本に合ったやり方を探していくこと。
映像から読み解けること~講演の中で紹介(一部上映)された映画の一例
〇「ストックホルムでワルツを」~1960年代のスウェーデン。離婚した女性が子育てをしながら、かつ古い考え方を持つ父との確執を抱えながら苦労してジャズシンガーとして成功していく物語。スウェーデンでも当時は保守的なジェンダー規範を持つ人々が多かったことが良くわかる。
〇「サーミの血」~現代のスウェーデン。サーミ人を例に今でも民族対立があることがわかる。(ジェンダーといテーマからははずれるという前置きあり)石黒氏からは、この民族対立は東京国際大学に留学中のスウェーデン人も知らなかった、というエピソードもあった。映画からこのような「自国の闇」を知り、かつ正面から受け止めることが大切。
(記録者感想~今回は時間の関係で、残念ながら演題後半の「欧米社会とジェンダー」については割愛されましたが、別の機会で是非お聴きしたいと思いました。また、今回の石黒氏のお話は、研究者としての背景に大学卒業後十数年間の会社勤務と6年間の英国留学という貴重な経験があることが良く分かりました。高校生・大学生(男女共)の皆さんにも是非聴いて頂きたい内容でした。)
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※講演会後に会場近くの居酒屋で懇親会を開催。講演会参加者の何と約8割の皆さんが参加され、また石黒氏とその同期5名の皆さんを囲んで、いつもより若いエネルギーが溢れた大盛況の懇親会となりました。
(幹事 荻原貴、79期)
第166回例会開催のお知らせ
2017.12.28
会報163号は新年号として皆さんのお手元に配達されます。
第166回例会のご案内をしておりますので、同封のハガキで参加のお返事と
近況報告を投函ください。
演 題:「映像から読み解くジェンダー、欧米社会とジェンダー」
日 時:平成30年2月3日(土)午後2時より(受付開始:午後1時半)
場 所:連合会館4階401会議室
東京都千代田区神田駿河台3ー2-11 電話:03-3253-1771
地下鉄千代田線新お茶の水駅B3出口すぐ 丸ノ内線淡路町駅徒歩5分
都営新宿線小川町駅徒歩3分 JR「御茶ノ水駅」聖橋出口徒歩5分
会 費:3,000円(飲み物、クッキー付き)
講 師:石黒 久仁子氏(第80期) 東京国際大准教授